『海獣学者、クジラを解剖する。』

『海獣学者、クジラを解剖する。』

 はっぴーわーきんブログをご覧の皆さん、こんにちは。利用者のKIです。今回は毛色を変えて、私が読んだ本の紹介をしようと思います。

 4月3日には30頭を超えるカズハゴンドウたちが千葉の房総半島に漂着しました。他にも先日、大阪湾に迷いこんだクジラ、淀ちゃんの事も記憶に新しいでしょう。こうした海の動物たちが岸に打ち上げられてしまったり、座礁したり、あるいは脱出不可能なところに迷い込む事を「ストランディング」と言います。

 ストランディングは日本だけでも年間に約300件もあるんです。これは特別多い数ではなく、イギリスでは年間約600件ものストランディングが報告されているんだそうです。

 こうしたクジラはもし可能であれば解剖され、博物館などで保管する標本づくりが行われているのです。もっとも淀ちゃんがそうであったように、予算や場所の問題でそうはできない事も多いのですが。そして標本を作るには、もちろんまずはクジラを解剖するという、大変に困難な作業があります。

 世の中にはそんな「クジラの解剖」にもプロと言うべき人物がいます。それは年間になんと50件ものクジラを解剖している国立科学博物館の海獣学者・田島木綿子さんです。その著書が今回紹介する「海獣学者、クジラを解剖する。~海の哺乳類の死体が教えてくれること~」です。

 タイトルにある「海獣(かいじゅう)」と言うのは海に住む哺乳類のことです。クジラだけではなく、水族館でおなじみのアザラシやオットセイも含まれ、本書はその見分け方なんて事にも触れられています。ラッコやジュゴンのお話もあります。

 本書にはクジラの解剖現場での格闘はもちろん、なぜそこまでしてクジラの標本を作るのか、博物館がそうする意味、研究と言うものの意味と意義が広く書かれています。

 大きなクジラと格闘した後には、全身に血を浴びてしまっているものですから、匂いが凄いそうで……地方で解剖したあと、東京に帰る前には温泉に入るそうなのですが、地元の人達にはいつもあまりの匂いに、何事かと思われるそうです。

 秋田県ではストランディングは男鹿市に多いらしく(GAOの方が現地のレポートを書いていたりもします)、もしあなたが男鹿や天王の温泉で、そんな匂いがする集団に遭遇したのなら……もしかすると、それはクジラの解剖学者の集団なのかもしれません。

 もしこんな事があったらと想像して「困る」よりも「ワクワクしそう」と言う気持ちが強い人もいるでしょう。解剖の現場で幼稚園の子供達に囲まれて、著者の田島さんがその場で即席の授業を行う場面を読んで、私は「なんて楽しそうな光景だろう」と思いました。

「お姉さんはね、なんでクジラがこの海岸で死んでしまったのかを調べるために、クジラのおなかの中や体の外側をいろいろ見ています。お腹の中を調べると、クジラがなにを食べているのか、何が好きなのかもわかるんですよ」

 そんな話をすると、子どもたちは「へえ、クジラも好きな食べ物があるんだ」と、真剣な顔で耳を傾け始める。

 そこで、もっとクジラを身近に感じてもらうために、クジラも人間と同じで、お母さんのおなかの中から産まれてくること、そして、お母さんのおっぱいをいっぱい飲んで元気に育つことなどを話す。すると、

本書P163~164より

「海獣学たちの世界」は、私たちにとって遠いものではなく、身近なものであり、私たちの生活に深く関わっている。まるで田島さんが子供たちに話すのと同じ様にたっぷりの時間とユーモアを持って、この本はそう読者に訴えます。

「そもそもクジラを調べてなんの役に立つのか?」と疑問に思われた方もいるのではないでしょうか? 「もっと目に見えて生活の役に立つような研究をした方がいいのではないか?」この本はそうした疑問の答えとなりえる一冊だと言えます。知らないことを知ろうとする、楽しみ、喜び、価値。この本を手にとってそうしたものに思いをはせるのもいいのではないでしょうか。

 いつかの未来には、それが迷いクジラを助けることに繋がるかもしれません。

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